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自転車で駆け抜けた〈神緑しんりょく〉の層雲峡。 Martin Meadows
名寄市立大学教養教育部 教授

35年前、私が初めてカナダから日本に来た際、温泉と出会い、すぐに日本で暮らす上での大きな楽しみとなりました。

層雲峡は、日本有数の温泉リゾート地の一つです。北海道の大雪山の真ん中に位置する、比類のない自然環境を誇るこの地は、私が長年、何度も訪れてきた場所です。特に冬には、冷たい峡谷の風が、多くの滝を登攀できる氷の柱に変え、深い山雪がバックカントリースキーヤーを誘います。

アイヌの人々はこの地域を「カムイ・ミンタラ」(神々の遊ぶ庭)と呼んでいましたが、層雲峡は人間たちにも、四季を通じて多様な遊びの機会を提供してくれる場所です。今回は自転車で層雲峡を訪れ、春の「神緑」を楽しみ、ホテル大雪が提供する洗練された楽しみを堪能しました。

私はサイクリングが大好きです。旭川からであれば一日をかけて、約80kmの距離にある層雲峡までの無理のない快適な自転車コースで、変化に富んだ景色も楽しむことができます。

道の大部分は専用のサイクリングロードで、一部区間では国道39号線に合流しますが、これらの区間も北海道開発局が管理する自転車用の案内看板や青く塗装された路面表示(矢羽根)で印されています。本格的なバイクパッキング旅行者にとって、層雲峡は西の旭川からと、東の北見からの中間地点として理想的な距離にあり、ホテル大雪の心地よい温泉は、山道の登りで疲れた身体を癒すのに最適な場所です。

自転車旅では、魅力的な裏道を探索することを可能とし、景色をゆっくりと、より深く味わうことができます。層雲峡に近づき、峡谷の壁が迫ってくるにつれて、かつて冬にスキーを履いて装備を積め込んで出掛けた七賢峰やブルーウルフといった、層雲峡をアイスクライミングのメッカにしている滝がいくつかあることに気付き始めました。

温泉街を通り過ぎ、銀河と流星の滝へ向かい、太陽の光が差し込む森の中、双瀑台まで登りました。そこで高山の融雪で増水した双子の滝のパノラマビューを望みました。断崖を激しく流れ落ちる滝は、冬の静かな氷の柱のイメージとは対照的な光景でした。

今回、自転車旅のペースがゆっくりだったので、層雲峡の過去の遺構を散策する時間ができました。

層雲峡のような温泉街は、主に高度経済成長期に建設され、飲食、カラオケ、温泉入浴を楽しむ活気ある時間を求めてバスで訪れる団体観光客をターゲットにしていました。1990年代初頭のバブルの崩壊、高齢化と人口減少、そして最近ではコロナ禍が、温泉街から離れた場所にあるホテルや、管理が不十分なホテルに致命的な打撃を与えました。

層雲峡で私が記憶しているホテルの一部は現在消滅し、他のものは放置されています。自転車を降りて、かつて繁栄していた時代の廃墟となった遺構を歩き回っていると、以前活気に満ちていた様子を想像するのは難しいほどでした。

私は、人間の儚い造物が、四季の巡りと共にのみ変化する自然の永久性に対して、いかに色褪せるかを思い知らされ、悲しみと畏敬の念が交錯する複雑な感情に包まれました。

経済の好不況を乗り越え、生き残ったホテルは、時代の変化に適応し、高いサービスとスタイルを維持してきたものです。

創業家が代々大切に経営してきているホテル大雪は、現代の幅広い好みに応えるホテルで、温泉の伝統に慣れ親しんでいながらも馴染みのものに新しくユニークな解釈を求める日本人客や、本物の日本体験を求める外国人客の両方に対応しています。

友人の推薦で、サイクリングの後にチェックインすることにしました。妻も一緒に滞在しました。私たちの部屋は「雪ほたる」で、日本と西洋のスタイルを融合させた広々としたシンプルでエレガントな部屋でした。日本の温泉に滞在する際、浴衣を着ることは、瞬時にリラックスできる特別な楽しみです。

3つの浴場から選べる中、まず7階にある名物の「展望大浴場 大雪乃湯」に向かいました。内風呂からは渓谷の絶景、露天風呂からは黒岳の絶景が望めることが特徴です。

筋肉の疲労やサドルの痛みは、単純硫黄泉に浸かることでたちまち消え去りました。

夕食は本当に素晴らしかったです!

私たちは「 inankur 」というレストランへ向かい、友人も合流しました。私たちのプライベートダイニングルームはモダンでスタイリッシュで、夜の星の下にいるような落ち着いた雰囲気でした。

料理は北海道の最高級食材を活かした日欧融合のスタイルで非常に美味しかったです。私が最も気に入ったのは、焼きホタテと魚の料理でしたが、全てが新鮮で美味しかったです!

落ち着いた雰囲気はのんびりとした食事のペースを促し、私たちの会話は、ホテル大雪オリジナルのとうきびから作られた珍しいクラフトビールや、上川大雪酒造とホテル大雪とのコラボで造られた日本酒なども楽しみながら盛り上がりしました。

私はワイン愛好家で、特に白ワインが好きです。北海道には活発なワイン造りのネットワークがあり、市場に高品質な品種が次々と登場しています。

友人が砂川産の「Grace du Ranch」という白ワインを持ってきてくれました。これは、酸味がよく、ソーヴィニヨン・ブラン特有の濃厚な風味が特徴の、爽やかで清涼感のある白ワインでした。素晴らしい!

私の夜はチニタの湯での入浴で締めくくられました。このお風呂はホテル内で一番、湯温が熱く、ミネラル含有量も最も高いように感じられました。私は少し変わり者かも知れませんが、火山性の硫黄の香りが大好きで、チニタの湯はその点で私の好みにぴったりでした。高温の浴槽にしばらく浸かり、その後、ほぼ体温に近い浴槽でクールダウンする。これが私の理想の夜のお風呂です。

深い睡眠の後、翌日はHINNAの森で提供された豪華なビュッフェの朝食で始まりました。ここでは、日本、中国、韓国、西洋の料理など、あらゆる好みに対応した食事が用意されています。ホテル大雪は、多文化共生を感じられる非常に優れたサービスを提供していると思います。

自転車を片付けて、私たちは層雲峡温泉の源泉を探索し、紅葉谷で森林浴の癒しを体験するために散策に出かけました。秋の紅葉の名所として知られる場所ですが、この時期の滝へのハイキングは、芽吹く植物の新緑が織り成す神々しい緑の景色=神緑の景色でした。

森林のマイナスイオンに元気付けられ、私たちはホテル大雪に戻り、ホテルの1階にあるTaisetsu Bakery Café & Barでベリー入りのピンククロワッサンとシナモンロールを買いました。焼きたての温かいパンの香りを嗅ぎながら、カムイ・ミンタラ(神々の遊ぶ庭)での癒しの滞在を振り返り、早くも再訪の計画を立て始めていました。

*メドウズ氏からのメッセージ:

雪のない季節には、サイクリングやハイキングが、私の心に限りのない自由と可能性の感覚をもたらします。屋外での身体活動で過ごす時間は、日常のストレスやルーティンから逃れ、身体と心を充電する手段です。

週末のアウトドア冒険で疲弊したにもかかわらず、月曜日の朝の職場では、驚くほどリフレッシュして集中力が高まっています。ホテル大雪のような素晴らしいリゾートホテルは、週末の冒険を洗練されたサービスとホスピタリティで彩ります。何も考える必要も心配する必要もありません。

これは、心を癒し、元気づける完璧な「おもてなし」なのです。

プロフィール:
Martin Meadows(名寄市立大学教養教育部 教授)
カナダ出身。トレント大学でスペイン語と文学を学んだ後、トロント大学で高校教員免許を取得。1990年、道北の高校で英語指導助手として1年間滞在する計画で来日するも、35年経った今でもこの地にとどまり、北海道の美しい自然と恵みを満喫。カムイミンタラ(大雪山国立公園・層雲峡)では長年、自転車やアイスクライミングなどのアウトドアアクティビティを愉しんでいる。

専門分野は応用言語学。「北海道の野外レクレーション」も担当。