
あの頃の風景が、ふいに蘇る――。
1980年代、スキーブーム真っ只中。私はモーグル選手として、日本人初のオリンピック出場を目指し、冬が近づくたびに胸を高鳴らせていた。毎年11月3日、層雲峡・黒岳スキー場のオープン日を心待ちにしていたのも、その頃からの恒例だ。
朝、目覚めると外から聞こえてくる「シャンシャンシャン」というタイヤのチェーンの音。あの音が、私の目を覚まし、心をスキーの世界へと引き戻す。まだ薄暗い中、白銀の黒岳を目指してホテルを出発するときの、あの気持ちが昂る感覚は、今も鮮明に覚えている。
当時、大学のスキー合宿に紛れ込むように泊まったホテル大雪。お昼に用意していただいた握り飯が、極寒の中での厳しいトレーニング後には何よりのご褒美だった。そして、滑り終えた後に迎えてくれるのは、かけ流しの温泉。冷えた体を包み込むそのぬくもりに、心までほぐれた。